中国を語る |
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旅は道連れ:呉越紀行その十 |
今回の旅を筆者は単身ツアーに加はるかたちで始めたるなれど、時間の経つとともになにかと気の合ふ人と会話をなすやうにもなりぬ。今宵はかかる人々と暫時飲み交はさんと、余を含めて四人わが部屋に集まれり。 S氏は年齢七十歳にしてこのツアーの長老なり。台湾人の細君とともに加はりてあり。みんなで飲みましょうよと云ひだせしはこの人なり。今宵は細君を部屋に置いて一人わが部屋を訪ね来れり。 A氏はあひると鴨の区別についていひだせし人にしてなかなかユーモアを解する人なり。T氏は年齢五十五歳にしてツアーの中では若い人の部類なり。とはいへすでに現役を引退して悠々自適の生活を楽しみをる由なり。 それぞれ何となく自己紹介して後、先ほど街中の酒屋にて買ひ求めし紹興酒を、これもまた街中にて買ひ求めたるナッツ類を肴にしてのみ始めたり。 最初に話題に上りしはツアー料金の安さについてなり。五つ星ホテルに七泊して食事はおろかガイドまでついて僅かに4万5千円。どうしてかかる値段が可能なりや、誰にも不思議に思はれたり。 ある人いふ。主催者のHISは航空会社から年間を通じての航空券を格安にて仕入れ、現地での旅行の賄ひ方は現地旅行会社に丸投げす。その委託料金が安くなるのは、現地の事情を反映したるものにして、旅行会社は入札の上最低価格を提示したるものと委託契約を結ぶなりといふ。 現地会社はすべて現地価格にてツアーを組む、この時に直接費用のほか土産店との契約及びオプション契約等に関してリベート発生するなれば、それらすべてを総合してペイするやうに設定するなりと。 かういはれても、何故かくも安い値段が成立するや余などは理解できざるなり。 中国の経済発展が階層間に格差をもたらしをることについては、上海の平均賃金6万ー8万なるにたいして、江西省は2万円といふ数字の比較にあらはるるとほり、中国にはいまだ想像もできぬ低賃金にて働くもの多かるなり。これもまた、ツアー料金を低くしうる要因のひとつといふべし。 四人して談笑するうち、ガイドの康康来り加はる。彼大学にて勉強したる日本語を磨き上げるためにも是非日本にいきたしといふ。されど中国人が日本旅行するには制限あり。相当の所得を得、一定の財産を持たざる者は貧乏人扱ひせられて日本のヴィザを取得するに困難あるなりと。されど何とか工夫して近いうちに是非日本にいきたしと。 康康余に向かっていはく、先生は実に勉強熱心なり、毎日の見聞を事細かく記録し、また地図を買ひ求めて中国の地理を研究せんとす、その姿勢に恐るべきものあり、中国は先生の掌のうちに絡め取られんとす、と。 またいはく、先生は職業を持ちたるやと。余今は浪人中なりと答ふるに、先生は中国の学生に日本語を教ふるつもりはなきや、今の中国は日本語の教員に大いに不足す、わが母校のハルビン大学も日本語教授不足したれば、先生の如き人材は大歓迎なり、月給は十万円ほどなれど中国の物価は安ければ生活には困らざるべし、また学生たちも先生を大事にすること熱きものあり、やってみる気はあらざるや、と。 余、今は浪人の気楽さを十分堪能しをるほどに、あへて仕官する気持ちあらずと答ふ。 そのうちまた一人、他のツアー客ウィスキーを携へて来り加はる。このほか余はあらかじめ上海女史の夫妻にも声をかけてありしが、こちらはつひに来らずしてやむ。 しかして談笑して深更に及ぶ。余は痛く酔ひて途中から記憶定かならざる体に陥りたり。 |
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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |