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世界遺産安徽省宏村:タイムスリップした桃源郷


中国安徽省南部に桃源郷と呼ばれる地域がある。黄山の麓に広がる村落群で、かつては他の地域から隔離された別天地だったらしい。別天地でありながら、そこに住む人々は豊かな暮らしをしていた。そんなところから、いつしか桃源郷と呼ばれるようになった。それがまた世界中の人々の心に訴えるところがあったのだろう、西暦2000年に世界遺産に登録された。

桃源郷とはいうまでもなく、陶淵明の有名な詩に出てくる村落のことだ。そこに住む人々は、この世の迫害から逃れて山奥に別天地を作って住んでいた。人々は純朴で豊かな暮らしを営み、自然の景色は心温まるほど美しい。それはまさに天国のようでもあり、またユートピアともいえるようなものだった。

その桃源郷を思わせるような村落群が、黄山の麓に広がっている。いったいどのような所なのだろうか。そんな好奇心に答えてくれるように、NHKがそれらの村々のたたずまいを紹介していた。

黄山の麓には、南屏、西逓、宏村といった古村落が広がっている。いずれも黄山の峰々を背景にして、幻想的な光景を繰り広げている。そんな中で宏村と呼ばれる村落が筆者には最も印象に残った。

宏村は南宋の時代に開かれた村だ。逆賊扱いされて迫害された汪氏一族がここに逃れてきて別天地を築き上げたのが始まりだという。一族は何もない裸の地を切り開き、住みよい地に変えた。この辺は陶淵明の詩に書かれてあることと符号があっている。

一族は黄山を背景にしたこの土地の形勢をよく考えた上で、村づくりをしたらしい。黄山から流れ出た水の流れを制御し、それを村落に引き込んで、池を作ったり、ダムをこしらえたりしながら、水の恩恵を最大限に引き出すようにした。

宏村の構造を見ると、村落の中を運河が張り巡らされ、人々が運河の水を最大限利用できるように按配されている。中央部には半月の形に池が整えられ、その池を挟むようにして、石造りの家々が立ち並んでいる。その家の結構は中国古来の伝統にのっとったものだ。それらが連なって見えるさまは非常に美しい。

また水の流れの終点にあたるところ、村落の郊外には広大な貯水池が設けられ、ダムのような役割を果たしている。このダムがあるおかげで、人々はどんな日照りの年でも水に困ることがないという。

いまに残されている宏村の建物の殆どは清の時代に立てられたものだ。石造りのがっしりとした建物で、重量感を感じさせる。かつては中国の農村地帯のあちこちに普通に見られたものらしいが、大都市などでは次第に消えつつあるという。それが手付かずの状態で村落ごと残っているというので、世界遺産に選ばれた。

ともあれNHKの映像に映し出された宏村の光景はほんとに美しいものだった。悠久の歴史が流れる中国には、こんな村があちこちに沢山あるのかもしれない、美しい映像を見ながら、筆者はそんな風に感じた次第だ。





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