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江南小紀行:上海・蘇州の旅(その一)


平成二十一年四月十一日(土)晴。横・今の二子と上海・蘇州へ小遊せんと欲す。余少年の頃より漢籍に親炙し、李杜毛詩を空んじつる外十八史略の類に拠って中国史の概要を学びたれど、未だ中国本土を訪れしことなし。還暦を過ぎて些か閑暇を得たるを以て、ここに宿年の思ひを果たさんとするなり。幸ひ同行するものを得たれば、多少は快適な旅となるべし。

早朝家を出で八時近く成田空港にて二子と会ふ。横子は上海へは二度目と言ひ、今子は始めてなりと言ふ。チェックインを済ませ、空港内の喫茶店にて軽食を取り、免税店にて煙草を買ひ、九時半頃搭乗口に至る。飛行機は日本航空791便、十時丁度に離陸す。機内乗客少なくして、大方は空席なれば、みな思ひ思ひに窓際に座せり。

上空雲もなく下界を鳥瞰することを得て頗る愉快なり。空港付近を利根川のあたりまで旋回したるのち、東京湾上空を横切りて西へと向かふ。横浜を過ぎて幾許もなく眼下に残雪を被りたる富士を見る。北に向かっては、南アルプス、中央アルプス、御岳そして北アルプスと、それぞれ残雪を冠したる山々の姿くっきりと浮かび上がりつつ連なりたり。余その威容と美しさに圧倒せられたり。

ややして機内食を振舞はる。食しながら下界を眺めをるうちに、飛行機は名古屋、琵琶湖、京都、大阪、神戸、瀬戸内海、北九州、長崎、五島列島を次々とかすめ、東シナ海上空へ飛び出したり。海上波立たず、時に船舶の航行するを見る。中国本土に近づくにつれ、海面の色のやや変化するを感ず。

十二時半頃上海上空に至りたれど、飛行場混雑のためとて暫時待機を余儀なくせらる。この間飛行機は上海郊外から揚子江の河口近辺を旋回す。上海郊外は未だ農村の姿を留めたると見ゆ。赤茶けた土の畑整然と連なり、その合間に農村の集落かなりの密度にて散在す。また揚子江の河口付近には大規模なる工場団地を認む。

十二時四十五分 (現地時間十三時四十五分) 上海浦東空港に着陸す。現地案内人李江迎へに来りてあり。ここよりリニアモーターカーに乗りて上海市内龍陽路に向かふ。全長三十キロをわずか七分二十秒にて走るなり。最高時速四百キロを超ゆる由。

龍陽路より出迎への車に乗り、ホテルに向かふ。浦東シャングリ・ラ(中国名香格里拉大酒店)と称し五つ星の高級ホテルなり。チェックインを済ませ、両替をなすに、日中両国の為替レートは一中国元に対して十五日本円の割合なり。

部屋に案内せられて、しばし寛ぎたる後、再び李の出迎を受けて、超高層ビルの展望台に案内せらる。環球金融中心(通称森ビル)といひて、地上百階なる展望台は高さ四百九十二米、展望台としては世界最高の由なり。そこより上海の市街を一望するに、四方に超高層ビル林立し、頗る活気を感ぜしむ。また至る所道路工事やらビルの建設工事施されてあり。上海は来年万国博覧会を主催するなれば、それに向けて目下都市の改造に取り組みをる由なり。

この展望台、九十四階からなるビル本体の上に五層の柱を立て、その上に乗せられをる構造なり。しかして床の一部をガラス張りにして、そこより大地を見下ろす工夫をなせり。横子などは鳥になりたる気分などといひて、大いに喜びをれど、余は高所恐怖症の気ありて、それどころにあらず。多少とも足下に視線が向くや、忽ち眩暈に見舞はれ卒倒せんばかりなり。

その後李を去らしめ三人肩を並べて市街を散策す。工事現場多くして至るところ塵埃濛々たり。処々の柵壁には上海万博の宣伝ポスターでかでかと貼られてあり。標語に曰く「我們大家的世博」(みんなの万博)

また路上に交通信号を見ること多からず。よって歩行者は車両通行の合間をくぐって道路を横断す。余らも大きな交差点を渡る際命の危険を感ぜしほどなり。

黄浦江沿に一のビル建設現場あり。六百米を超ゆる超高層ビルを建設するなりといひ、名称を上海タワーといふ。完成の暁には世界最高たるべし。目下上海最高の建物は日本人の所有なれば、中国人はこのビルに民族の威信をかけをるなりといふ。

沿岸に近づくに柵に妨げられて水辺に至ることを得ず。道路沿いにはおびただしき乗用車駐まりてあり。ナンバーを見るに滬、蘇、浙の三種類なり。滬は上海の古称なり、蘇は江蘇省なり、浙は浙江省なり。中国はナンバーの分類を細やかにせず、省単位になせるが如し。

とあるスーパーマーケットに立ち入りて買物をなす。値段を見るに、酒も食品も東京とほぼ同じ水準なり。

夕刻李三度来る。ホテル付近に正大広場なるデパートあり。その十階なる四川料理店?江南に案内せられて晩餐をなす。海老と唐辛子の炒め物、麻婆豆腐、牛肉の油漬など、いづれも頗る辛し。

食後静安寺地区の雑技劇場「雲峰劇院」に案内せらる。雑技とは小規模なサーカスの如きものにて、上海を代表する娯楽なり。輪潜り、皿回し、アクロバット、空中遊泳、数台のオートバイによる球体内疾走など、いづれも人の目をして楽しましむ。演者には少年少女も多く含まれてあり。アクロバットの如きは少年の身体の動き胡蝶の如く軽妙に感ぜられたり。

劇場内は数百名の観客充満す。余らは前列中央の一等席に座しをるところ周囲の人みな日本語を話す。李の言に日本人は常に前列の席に座したがり、ロシア人と韓国人は中ほどの席に座したがるなりといふ。余の席からは舞台の様子判然と見渡されたり。一々写真を撮りつつ堪能せり。

ホテルに戻りしは十時近くなり。それぞれシャワーを浴びて後、先ほどスーパーにて買い求めし紹興酒を飲みつつ歓談、深更に及ぶ。


(写真説明)上:預園から浦東を望む、 下:上海雑技





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