中国を語る
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澳門観光:嶺南紀行その五


昼食後澳門半島より橋を渡って対岸の島に至り、マカオタワーに上る。高度338メートルの塔にて、展望台よりは澳門とそれに接する中国側の市街を含めて一望しうるなり。香港程にはあらざれど、ここにも高層ビル林立し、それなりに活気を感ぜしめたり。

マカオタワーはバンジージャンプのメッカといふ。二百数十メートルの高さから命綱をつけて飛び降りるなり。余らが展望台上滞在時丁度その現場に出会ふ。余カメラを構へ、人の跳躍する瞬間を撮影せり。

その後銀河酒店内のカジノに案内せらる。澳門は賭博が最大産業といふべく、市内には37か所のカジノ存在する由。全体を併せればラス・ヴェガスの四倍の規模を誇り、中国はともかく世界中からギャンブル狂を招き寄せるなりといふ。カジノの経営権は入札方式にて、落札者はただ一人。落札せるものは、それを又貸しにして膨大な利益をうるなり。されば経営権を巡る競争は熾烈なりともいふ。

カジノ内を一周するに、バカラやルーレットのほか、個人向けのゲーム機多し。遊びをるものは殆ど中国人にて、中には七十過ぎの老夫妻もあり。

カジノに隣接して映画館あり。村上春樹原作「一路向西」といふ映画を上映してあり。「国境の南、太陽の西」のことか。ただしどういふ訳かポルノ映画なり。かかるものに原作者の村上が許可を与へたるとは思へず。恐らくは海賊映画なるべし。

夕餉は粤門駿景酒店といふホテルの食堂にてポルトガル料理を喫す。サラダ、牛肉のステーキ、ポテト、イワシの油炒め、蟹の油炒め、鶏肉の炒めもの、車海老の炒めもの、ピラフなり。

一対の老人と食卓を共にす。小学校時代の同級生にして、生涯を仲良く生きてきたりといふ。大田区の東調布に生まれて以来一貫してそこに暮し、大空襲にもあひたりといへば、いくつになるのですかと歳を聞くに、今年八十歳になる由なり。

幼馴染が共に八十歳まで生きてこられたのは良かったですね、といふに、老人の一人は感慨深そうな表情をなせしが、いま一人の老人は、呆然たる表情のままなり。どうやらこの人は痴呆の症状を呈しをるやうにて、時たま人をして唖然とせしむることあり。そのたびに友達の老人かひがひしく面倒を見るなり。うるはしき光景といふべし。

食後セナド広場の夜景を見、クラウンビル内の劇場にて三次元ショーといふものを見る。これは一種の3D映画といふべきものなれど、3D用のメガネを用ひず、裸眼にて立体感を感知するなり。この日の出し物は、海底の世界を描写するものにて、夥しき種類の魚類に混じり龍の怪物縦横に出没せり。

とある喫茶店にて氷花敦蛋なるものを振る舞はれて後ホテルに投ず。タイパー・スクェア・ホテルといひて、中国名はあらず。そこにてバーボン・ウィスキーを舐めつつ今子と歓談。テレビ画面を見るに、今夜もまた尖閣問題大々的に報道せられてあり。





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011
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