中国を語る |
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深セン観光:嶺南紀行その三 |
昼食後紅勘なる鉄道の駅に至る。そこより電車に乗りて深センに行かんとするなり。駅前広場人々雑踏し、ビラを配る者の姿あり。立て看板には「法輪功邪教」、「江沢民流亡集団」などと書かれてあり。ガイド決してビラを受け取ることなかれといふ。若しビラを携へて深センに至らば、必ず官憲に拘束せらるべし。何故ならビラには中国共産党を批判する文言溢れをるなればと。 香港より深センに行くには通関手続きを要するなり。鉄道駅内の通関所にて手続きを為して後列車に乗る。車内を見渡すに清潔感あり、中吊広告の類は設置せず、壁際の広告も控へめなり。また網棚を儲けず、座席下の空間を荷物の収納に利用しをるなり。広告網棚とも東京の地下鉄車内の乱雑ぶりに比すればはるかに上品なり。 車内ははじめ座席の余裕ありしが、九龍塘なるところにてほぼ満員となる。列車は40分ほど走りて後トンネルをくぐり、更に水路を渡って深セン市内に入れり。終点の駅を落馬洲といへり。 入境手続きをなして後駅前広場に至れば、現地ガイド待ち構へてあり。名を尹といひ、ハルビンより出稼ぎに来れる由なり。尹の如く中国各地より深?に出稼ぎに来れる者頗る多し。彼らの大部分は若者なれば、深センは若者の町といふべし。人口1800万人の平均年齢27歳。驚くに堪えたり。 人工の町なれば、固有の文化と言ふものを持たず。言語は北京語を話し、生活様式極めて合理的にして因習を感ぜしめず。街の雰囲気のみならず人々の生活様式に至るまで作り物の如しといふ。 改革開放路線の落胤にして中国発展の見本の如き都市なれば、全国の若者の憧れの的とはなりをれど、生活は決して夢の如きにはあらず。出稼ぎ労働者の賃金は安く市内の物価は貴し。されば若者たちにはこの町に定住せんとする意思を持つもの少なし、多くは一定期間この町に滞在し貯金して後は、郷里に帰って生業に復するなりといふ。 シルクの土産店に案内せられ荊婦のためにマフラーを買ひ求めて後民俗文化村なるところに案内せらる。中国史を題材にしたるテーマパークなり。尹がいふに、深センは人工の町なればいはゆる観光資源を有せず。されば観光客誘致の目玉として、市当局この民族文化村を作りしなり。他に案内すべき所あらざれば、ここにてしばし寛がれよと。 遊覧車に乗せられ園内を一周す。万里の頂上に始まり江南の諸都市やら現代の天安門など、中国史を彩る様々な名所旧跡再現せられてあり。日光の東武ワールドスクェアの如きものなり。 夕刻少数民族の経営するなる土産物屋街を覗き歩き、さる店にてマンゴーのジュースを飲み、粤海閣なる食堂にて夕餉をなす。粤は越に通ずるなり。古来浙江以南をおしなべて粤といひ、その彼方を越南といふなり。 料理は四川料理なり。炒飯、酢豚、回鍋肉、麻婆茄子、麻婆豆腐、胡瓜と唐辛子の炒めもの、白身魚の揚げ炒め、白菜の炒めもの、蛋湯なり。ビールは青島ビールにて度数4.3度、大瓶一本価50ドルなり。 食後錦繍中華なる野外劇場にてショーを見る。雑劇と音楽劇を組み合はせたるものにて、アクロバットミュージカルともいひつべし。昨年杭州にて見たるものと同じやうな趣のショーなり。能書に中国の歴史をテーマにしたる歴史劇とあり。天地開闢に始まり、堯舜の聖人伝説、禹の国造り、戦い、農耕、婚姻、花、火など、中国の神話的世界を次々と展開す。 舞台には300人の俳優登場す。その数字からして結構の雄大さを知るべし。印象的なるは少年たちの演技にて、まさにアクロバットを見るに異ならず。かかる小さきうちから鳶芸を仕込まれたらば、体操が上手になるは必然なり。 ホテルに向かふ車中、ガイド改めて深センについて説明す。深?は香港に接するなれば、いたるところ香港の影響あり。香港資本が深センに流入するはもとより、人々の交流もあり。なかにも噴飯ものは、香港の金持ちが美人を求めて深?に来ることなり。彼らは気に入りたる女を見つけるや妾にしてマンションに住まはせ、週末に来りては共に過ごすといふなり。 先ほどの踊り子の中に、日本の芸人小林幸子を彷彿せしむる美女ありしと思しが、彼女もさる妾の一人なり。踊り子としての収入は月10万円ほどなれど、数千万円もの高級マンションを二戸有し、フェラーリを乗り回しては豪勢な生活ぶりを見せびらかすなり。金の力のなすところと言へど、あさましき限りなりと、ガイド嘆息すること頻りなり。 ガイドまたいふ。昨今の尖閣諸島問題のあふりを受け、日本人観光客めっきり減少せり。ために明日以降当面日本人相手のガイドの仕事あらず。いつまでかかる状態の続くやら甚だ不安なり。場合によっては完全失業の恐れもありと。 尹またいふ。国家間の領土問題にはそれなりの理由処方あるべし。しかれども国家間の対立と一般人民間の交流とは自づから趣を異にすといふべし。少なくとも国家間の対立により、我々如き下々が生活に窮するが如き事態は避けてもらひたしと。 深更近くホテル南海酒店に投ず。シャワーを浴びて後、バーボン・ウィスキーを舐めつつテレビニュースを見るに、果して尖閣問題大々的に報道せられてあり。街の声もニュースキャスターも日本の野心を糾弾して余念あらざるが如くなり。 |
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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |