中国を語る
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愛国精神か愛党主義か?:中国はどこへ向かうか


先稿でも述べたとおり、中国共産党結党90周年にあたる今年、中国全土で共産党をたたえる運動が繰り広げられているようだ。その極めつけは共産党の結成を描いた映画「建党偉業」の宣伝、全土にある映画館の9割以上にあたる6000の映画館で上映されている。今のところ中国人が気軽に見ることのできる映画はこれだけで、外国映画はもちろん、国産映画もほとんど上映されていないそうだ。

これには映画好きの中国人も腹を立てているようで、「建党偉業」を上映している映画館はどこもガラガラ、その一方で外国映画を不法にコピーした海賊版が爆発的に出まわっているという。

改革開放路線を突き進んできた中国では、経済活動をはじめ多くの分野で自由化が進んだが、映画など文化の面ではまだまだガードが高い。外国映画の輸入には割り当て制限が課せられ、しかも厳しい検閲をパスしなければならない。あのハリー・ポッターシリーズも、中国ではなかなか上映されることがない。

これは過渡的な現象で、いずれは文化面でも自由化が進むかというと、そう簡単な話にはならないようだ。

中国はいまや世界第二の経済大国になり、その経済力を背景に軍事大国にもなりつつある。こうした情況を背景にして一種のナショナリズムが高揚してくるのは時の勢いというものだが、中国ではナショナリズムの向かう対象をめぐって、それが国家なのか共産党なのかについての鋭い分裂があるようだ。

憲法上共産党による一党独裁がビルトインされている中国においては、国家すなわち共産党という図式がなりたちやすい。じっさい共産党内で力をつけてきた次世代のリーダーたちは、共産党の権威を極端に強調する傾向を持っているといわれる。これに対して、民主化に理解ある勢力は、一党独裁を表立って批判することはないにしても、西欧流の統治形態を幅広く取り入れるべきだと主張している。

つまり、共産党結成90周年にあたる今年は、いろいろな意味で、これまでの改革開放路線を引き続き推進し、欧米流の社会に近づいていくのか、それとも中国の伝統に立ち返り、欧米とは異なった独自の社会を目指していくのか、選択を迫られる分岐店にあるという認識も成り立ちうる。

来年は共産党の指導者が10年ぶりに入れ替わる節目のときだ。今のところ習近平(Xi Jinping)とか薄熙来(Bo Xilai)といった人々が新しい権力の中核を担うと予想されているが、彼らはどちらかというと、欧米との強調を重視し、改革開放路線を進めていこうという立場以上に、中国の独自性とそれを支える共産党の一党独裁に強いこだわりを持っている人々だと考えられる。(写真はロイター提供)





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011
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