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銭雲会 Qian Yunhui の死を巡る謎


最近、中国のネット社会で、上の写真が話題になったそうだ。一見、交通事故の現場写真のように思われるが、実はそうではなく、巧妙に仕組まれた殺人事件、それも地方当局の役人による殺人だという噂が、駆け巡ったのである。

事件が起きたのは中国浙江省西部の建築現場近く、警察当局の発表では、建築現場に出入りする大型トラックに、その土地の人銭雲会 Qian Yunhuiさんが誤ってひかれたということになっているが、その現場を目撃した数名のものが、これは事故ではなく、意図的にひかれたのだと、証言しだした。

証言者たちによれば、銭雲会さんはガードマンの制服を着た4人の男たちに、無理やり抱きかかえられて、トラックの通り道に体を据えられた、そこをトラックの巨大なタイヤが乗っかって、銭雲会さんはこんなみじめな姿に変わり果ててしまったというのである。

銭雲会さんの関係者は、地方の役人たちがやくざを雇って、銭雲会さんを殺させたと主張している。弁護士も乗り込んできて、真相の解明に取り掛かった。

銭雲会さんは数年前から、役人たちによる土地収用の問題点を告発し続けてきた。自身の土地も収用の対象にされたが、絶対に応じることはなかった。こうした姿勢が地方当局の憎しみを呼び、銭雲会さんはさまざまな迫害を受けてきたが、それでも屈しないので、とうとう殺されてしまったというのである。

事件の真相はいまだにわかっていない。警察当局は、トラックの運転手を逮捕するとともに、先ほどのような証言をした人々も逮捕した。そしてこれはあくまでも交通事故であるとの姿勢を崩していない。

それでも、人々が当局の説明を信じずに、上述のような風説がネット上に飛び交う事態は、何を意味しているのか。

そこにはやはり、権力に対する中国民衆の根深い不信があるのだろうと思われる。中国は官僚優位の社会だから、土地の収用も否応なしだ。民衆はろくな補償もなく、自分の土地を強制的に取り上げられる。だからこそ、北京オリンピックも上海万博も、短期間で突貫工事ができたわけだ。

だが土地を取り上げられる民衆にしてみれば、こうした国家の華やかさの陰に、自分たちのみじめな生活がある。そのやるせないような不満感が、こうした風説の独り歩きにつながっているのかもしれない。

(参考) Goons and the common man What a possible accident says about the government's credibility : Economist





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011
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