中国を語る
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レビヤ・カーディル Rebiya Kadeer ウィグルの母

今回のウィグルの暴動をめぐって、レビヤ・カーディル Rebiya Kadeerという60歳の女性が俄然クローズアップされた。中国政府が暴動の扇動者として名指しで非難したこともさることながら、ウィグル人の地位向上に尽くしてきた彼女の活動歴が改めて光を浴びたからだ。彼女は現在アメリカに亡命しているが、ウィグル人の間ではウィグルの母として尊敬を集めているという。

彼女はもともと実業家だった。ケ小平が始めた改革開放路線に乗って大成功を収め、中国有数の富豪にのし上がった。一方教育などの社会的関心が強く、自分の経営するデパートの一角で、貧しい者たちを対象にした無料の学校を開くなどしていた。こうした活動は中国当局にも評価され、一時は政府機関のメンバーになったり、国連代表団に加わったりもした。

彼女が中国当局に煙たがられるようになるのは1990年代の半ば以降である。ウィグル人民の生活向上を訴えてさまざまな発言をするようになったのが、共産党の意にそぐわなかった。1997年に中国政府によるウィグル人弾圧事件が起きると、彼女はこれを厳しく批判し、共産党との対立姿勢を強めていった。

1999年、アメリカ議会の使節団が中国を訪問した折、彼女は使節団と面会しようとしたところを逮捕された。容疑は国家秘密をアメリカ側に漏洩しようとしたというものだった。彼女は8年間の禁固刑を言い渡され、投獄された。

この事件は世界中の人権団体の関心を引いた。アメリカ政府も座視することができず、中国政府に対して繰り返し、彼女の解放を求めた。その結果中国政府は2005年にやっと彼女を解放した。

開放された彼女はアメリカに渡り、そこでビジネスを継続するとともに、ウィグル人の人権について強いメッセージを発し続けた。そのメッセージはインターネットを通じてウィグル人に伝わるとともに、世界中に発信された。

そんな彼女を中国政府は目の上のこぶとしているわけである。今回の事件は彼女が中心となって仕組まれた組織的な暴動であると、口を極めて罵っている。

彼女自身は、TIMEとのインタビューに答えて次のように言っている。

今回の暴動については、中国政府による一方的な報道が流れているだけで、真相はわからない。テレビでは血を流している漢人ばかりが映し出され、傷ついたウィグル人は一人も出てこない。悪者はウィグル人だという、いつもどおりの偏った報道だ。一方政府側の公安機関は明らかに武装していた。ウィグル人には武装していたものはいなかったはずだ。

そもそもは広東省で発生したウィグル人労働者殺害に抗議する平和なデモだった。それに政府軍が襲い掛かったというのが真相だろう。それに対してウィグル人が抵抗し、一部が暴徒化した可能性はある。

自分はこの事件とは何の関係ももっていない。中国政府がいうように、暴動を組織したような事実はない。

自分が行っているのは、ウィグル人の人権を守り、その生活を向上させるための戦いだ。それはあくまで言論上のものであり、武力に訴えようとするものではない、と。

中国政府のほうは、この事件を重く見ているようだ。イタリアのサミットに参加すべく出張中だった胡錦濤主席が急遽帰国して事態の収拾に乗り出したほどだ。また各地から重武装の警察部隊が集結し、ウルムチはただならぬ雰囲気に包まれている。さながら天安門事件の再来を思わせる。

中国政府はこれまでのように力をもってウィグル人の不満を押さえ込むだろう。だがそれによってウィグル人の心まで押さえ込むことはできまい。





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011
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