中国を語る
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金陵十三釵に見る反日感情


いわゆる南京大虐殺を描いた中国映画「金陵十三釵(張芸謀監督)」がいま大きなブームになっているという。中国人の歴史観に基づき、日本人による中国人の大虐殺を糾弾したものらしい。らしい、というのは、実は筆者はまだこの映画を見ていないからだが、NEWSEEKの紹介記事によれば、日本人への憎しみを掻き立て、中国人の愛国感情に訴えるものだという。

中国人がこの事件を大々的に取り上げ、学校教育でも教えるようになったのは1980年以降のことらしい。それ以前には、中国共産党はこの事件に対してわざと避けるようなところがあった。何しろ国民党の牙城で行われたことだし、日本とは、戦後復興への支援もあって、余計な波風は立てたくないとの配慮が働いた結果だったらしい。

しかし中国も改革開放路線以降経済力が高まるにつれ、ナショナリズムも高まってきた。そんななかで、歴史認識を巡る対立から、日本に対して厳しい姿勢を取るようになった。反日教育はその表れだった。今日の中国の若者の多くが強いナショナリズム意識を持ち、日本に対して否定的な感情を抱いているのは、こうした教育の結果だ。

日本の方は、戦後教育の中で現代史教育に熱心だったとはいえない。学校で南京事件について触れるようなことは殆どなかったし、日中戦争がどのように行われたかについても、詳しく教えることはなかったといってよい。だから中国でこんな映画が作られて、反日感情がいっそう掻き立てられるのを見ると、大部分の日本人は唖然とするばかりだろう。

歴史認識のあり方をめぐって、日中両国にはどうもボタンのかけ違いがあるようなのだ。

中国側はこの事件で43万人の中国人が虐殺されたと主張している。東京裁判をはじめいわゆる戦争犯罪を裁く裁判でもこの主張が繰り返され、それに基づいて多くの日本人関係者が処刑されたが、そうした裁判の場では、日本側による有効な反証は殆どなされなかった。それ故、中国側の主張は国際社会にも受け入れられやすくなっている。

とにかく中国国内では、日本人のイメージはかなりステロタイプ化されているようだ。日本人は基本的に残忍で人間性に欠けた民族だという思い込みが独り歩きしているようなところがある。その証拠に、2009年に作られた「生と死の街」という南京虐殺をテーマにした映画では、日本人にもヒューマンな人はいたという、ある意味で当たり前のことを一シーンの中で取り上げたところ、全国からブーイングが沸き起こり、この映画を作った陸川(Lu Chuan)監督は非国民呼ばわりされたということだ。

こうしたことは、日本人にとっては無論、中国人自身にとっても不幸なことだといわざるを得ない。

できうれば日中が共同でこの事件を取り上げ、歴史の真実を明らかにする努力を重ねていくべきだろう。(写真はNEWSEEKから)





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011
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