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西塘散策:呉越紀行その十六


西塘は上海の西方約九十キロのところにあり。元代に形成せられたる水郷の古鎮にて、ほかの水郷の古鎮に比すればいまだ観光地化進まず、明清時代の佇まひを色濃く残しをるなり。数年前に公開せられしアメリカ映画「ミッション・インポシブル(トム・クルーズ主演)」の舞台となり、NHKも特別番組にて紹介したれば、日本人観光客の人気をとるやうになれり。



メインストリートは西街といふ一キロ足らずの石畳の狭小なる街路なり。白壁やら木造のシックな建物並び、それぞれに土産物などを商ひてあり。



また明清時代の富豪の屋敷もいくつか保存せられてあり。そのうちの一つに立ち入る、まづ目を引くのが玄関にて、正面には一対の椅子、その前左右にはそれぞれ一対づつ椅子を並べてあり。乗客が来たらば主人と主賓とが前面の椅子に並び、その前には主賓の連れ人並び懇談する形式は、今の中国指導部が外国の賓客を迎ふる時の流儀と異ならず。魯迅の生家にも同じ形式の客間ありたり。



西街のはずれに永寧橋と称する石造の太鼓橋あり。その上より運河の北に広がる家並を望む。家々は前面に庇を深く差出し雨除けの工夫をなす。廊柵といふ由。西塘の最も西塘らしき眺めなり。



煙雨長廊と称する廊柵より対岸を眺むれば、家々の壁直接水に溶け込み、恰も水上都市の如くに見えたり。



煙雨長廊の中ほどに送子来鳳橋と称する石橋あり。段々と勾配との二種の階段あり。石段を渡れば男児を得、勾配を渡れば女児を得るとの俚諺ある由なり。



ここより船に乗れり。船の上より見る光景もまた一段と旅情をそそりたり。



舟は四十分ほどして終点の船着場につきぬ。

夕刻上海に至る。天然ゴム製品販売所上海天然乳膠健康寝具直営中心に立ち寄りてのち、老馬頭なる餐庁にて晩餐をなす。ここにて山水ビールといふを注文せしが、水の如く薄きは従前と異ならず。

上海料理数皿のほかフカヒレを供せられる。材料を節約しをる故か、味きはめて薄し、フカヒレ風味のスープと称すべき類のものなりき。





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