中国を語る
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無錫観光:呉越紀行その六


午後は無錫観光をなす。無錫は蘇州同様長江の下流域に開けた水郷都市にて、太湖より別れた水路が街を囲むなり。

殷末期の句呉国が始まりといはれ、長らく青銅の原料たる錫を産出しをりしが前漢の時代に鉱脈枯渇してより無錫といはるるやうになれる由。その後は魚と米の産地として江南の経済力を支へ、隋代に大運河が開かれてよりは交通の拠点として大いに発展す。

手始めは太湖遊覧なり。その前に三国城なる映画撮影施設を訪問す。ここにて現地ガイドケ女史バスに乗り入りて説明をなす。

無錫はいまや多くの日本人の来るところとなりしが、そのきっかけは無錫旅情といふ歌なりき。この歌がヒットしたることにより、無錫は日本人に有名となり、観光スポットにも加へられ、シーズンには多くのバスを連ねて日本人が来るやうになれり。

そのため無錫当局はこの歌の歌手緒方大作を名誉市民として顕彰し、今もって彼を招待しては感謝の意を表しをるなりといふ。自分らガイドの如きもそのおかげをもって仕事にあふるることなし。商売繁盛みな緒方さんのおかげなりと、大いに感謝してやまず。



三国城とは太湖畔の広大な施設にて徒歩にては大変なればとて、ガイドに進められて園内交通施設に搭乗す。



ややして太湖畔に至る。ここにも撮影スポットあり。船の模型など展示せられてあり。映画レッド・クリフ(赤壁)が撮影せられたるはこの撮影所の由にて、クライマックスたる船の海戦の模様は小さな模型を用ひて撮影したり、とその模型を指させり。たしかにおもちゃの如き粗末な模型にて、これから海戦の壮大な戦闘シーンが生まれしとは思ひよらざるなり。

遊覧船に乗りて太湖を一周す。太湖は中国第三の湖にして面積は二千二百五十平方キロ、幅は五十二キロに及び、大小合わせて七十二の島を擁す。されど水深は浅くわずかに二メートル半といふなれば、学校のプールとあまりかはらぬなり。

この湖は白魚や上海ガニを産するほか淡水真珠の産地としても知らるる由。

下船後衛生間(厠所)に入る。小便器はそれぞれ独立してをらず、一線状に掘り込みたる溝に向かって放尿するなり。大便器の便壺も一線上に掘り込みたる溝を以て代用し、これに一斉糞便を輩出せしめたる後、一列に並んだ糞塊を一気に流すといふ工夫なり。



その後、呉の王宮を見物す。これも映画のための用途を兼ぬるといふ。宮殿にては昔の衣装を着せしめ記念撮影をなすものあり。

次いで国営の真珠製造所を訪ぬ。店長兼本社副社長なる人出現し、流暢な日本語を以て真珠の製造について語る。その前に自分が役人の身分にして何故商人のやうなことをなしをるかについて説明す。

中国は共産主義社会にして役人天国なり。役人はただに行政を執行するに非ず、国営企業の経営をもなす。彼らの最大の資産は土地にして、不動産の売却から上がる巨額の収入を元手にしてさまざまな企業を設立するなりといふ。されば中国の役人は、公務に付随して賄賂を修得するほか、不動産の売却と企業の経営を種にして巨額の資金を着服することを得るなり。

自分ももとは外務省の役人なりしが、権力闘争に敗北して中央を追はれ、この僻地の工場を任されをるなりと、話しぶり実に率直なり。

この役人は、我々のことが気に入りたりといひて、真珠の粉末入りの化粧品セットを定価の半額にて売るべしといふ。同行の女性たち、声を大にして更にまけよとせまる。役人つひに折れて破格の値段にて売却することに同意したり。そのかはり日本に帰ったら大いに口コミをなされたしと条件を付けたり。

余はこの役人の勧めに従ひて紫色の真珠の首飾りを荊婦のために求めたり。値三千四十人民元なり。淡水真珠はあこや真珠とことなり、成長するに七年以上かかるといふ。余が買ひし真珠は直径十ミリ前後の大粒なれば優に十年以上は経過したるべしと。



夕近く長広渓国家城市湿地公園に立ち寄る。湿地の一角に橋架りたり。上の写真がそれなり。なかなかよき眺めといふべし。



晩餐の場は無錫市内意家酒店内の餐庁なり。日本のサントリービールありと訊き取り寄せるに、現地生産の製品とて、味もラベルも日本とは大いに異なれり。第一酒精度三度ほどなれば、ビールといふより水を飲むが如きは今までのものと異ならざるなり。

無錫料理といひ、中国風茶碗蒸し、湯葉の炒め物、麻婆豆腐のほか、蛋、胡瓜、セロリ、キャベツ、米のおこげ、鶏肉などの料理を供せらる。

卓上例のあひるの紳士、昨夜何を食ひしか思ひ出せずといふ。余手帳を取り出して、いちいちメニューを説明す。





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