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蘇州観光:呉越紀行その五


 平成二十三年十一月十一日(金)晴。九時に酒店を辞して街に出れば道路夥しき車両の占拠するところなり。自転車また多し。歩行者は信号なき所を横断す。道路に信号を設置すること希少なればなり。

ややして留園に到着す。蘇州市内にはユネスコの世界遺産に登録せられたる名園九か所存在す、留園はその最も有名なものにして中国四大庭園に数へをらるるなり。他の庭園と同じく、商都蘇州の経済力を背景に明清時代の豪商によって創建・造営せらる。

見どころは太湖石といふ形状珍しき石を園内随所に配置しをることなり。この石は水の浸食を容易に許すことから、複雑怪異な形態を呈するもの多かる由なり。

前回見物せし拙政園よりは一回り小規模なれど、人の目を楽します趣向に富むといへり。



園内に毛筆もて描画するものあり。聞けば美術学校の生徒なる由。みな思ひ思に筆を振るひ水墨画の素描を得んとするものの如し。



次いで寒山寺を訪ぬ。前回の時より綺麗になれるが如く感じたれば、そのことを同行の上海女史に話したるところ、手入れが悪く体裁貧しきさまを地元の金持ちが憂へて、寺に金を出して修理せしむるなりといふ。

本堂の濡縁に上るに、四周に獅子の石像を設置してあり。康康その石像を指で触りつつ三周すれば現世的な御利益ありといふ。しかして余らに石造を触りつつ三周せんことを勧む。余ら訳もなくその指示に従ふ。三周しをはりて周囲を見るに、かかることをなす中国人は一人もあらず。

康康いふ、現世利益は自分自身のため、中国人は無信心な人々故、気にすることはなしと。



昼餉は無錫市内の餐庁中水大酒店にてなす。薄味の無錫料理にて、豚の脂肉を煮たるもの、川エビと豆腐の炒め物、餃子風の蒸し物、スペアリブのシチューのほか、麩、蛋、チンゲン菜、セロリ、チャーハンなどを供せらる。

ここもまたビールの味は水の如くなれど、料理は薄味ながらうまかりき。





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