中国を語る
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米中戦争は起こりうるか


南沙諸島を巡って米中対立が深刻化した結果、どうもきな臭い雰囲気が漂うようになってきた。この調子だと米中戦争の勃発もあり得ない話ではない。アメリカのオバマ政権には妙に原理主義的なところがあって、アメリカの正義を貫徹するには戦争も辞さないという姿勢が顕著だ。一方中国の方は、南沙諸島の領有権は核心的利益だと主張し、アメリカに脅かされたからといって、おめおめ尻尾を巻いて引き下がるわけにはいかないだろう。アメリカは近いうちに、中国が主張する南沙諸島の領海内に軍艦を突入させると公言しており、もしその通りのことが起れば、米中間に戦争行為が勃発する可能性は否定できない。

で、そうなった場合、どんな事態が起こるか、とりあえずシミュレーションしておくのも無駄ではあるまい。シミュレーションをするには色々なファクターを考慮せねばならぬが、ここでは専ら軍事的なファクターを考えて見たい。

中国の軍事力が、近年急速に拡充したとはいえ、まだまだ米中の軍事バランスはアメリカが圧倒的に優位だ。米中戦争の緒戦は海戦という形をとることになるだろうから、両国の海軍力の比較が重要となるが、この分野でもアメリカの優位は圧倒的だ。中国はやっと空母を保有したとはいえ、「張り子の虎」だという評判だし、その他の軍艦についても、中国にはまともな運用実績がない。つまり中国海軍はいまのところ、戦争についてはど素人の集団と言ってよい。一方アメリカには、世界の海で、空母を含めた軍艦を運用してきた実績がある。

だが中国には圧倒的に有利な部分もある。南支那海は自分たちの海だと日頃から言っているように、仮に南支那海が戦場となった場合、本土からのアクセスが有利である。このアクセスの有利性は、空母の不在を補う利点となるかもしれない。これに対してアメリカは、フィリピンや沖縄に自前の軍事基地をもっているので、地理的優位性という点である程度中国に対抗できないこともないが、フィリピンと言い、沖縄と言い、外国には違いない。それらの国にある米軍基地をフル稼働させるためには、それらの国民からの絶対的な肩入れが必要になる。中国にはそのような必要はなく、自分の意思で何とでもできる部分、アメリカよりも有利と言えるだろう。

中国海軍はど素人の集団だといったが、アメリカ海軍にしたってそう威張れたものでもないらしい。なにしろアメリカ海軍が本格的な戦争をしたのは、太平洋戦争における対日本海軍戦だけである。それの緒戦と言うべきミッドウェー海戦でこそ圧倒的な勝利を収めたが、その後の南太平洋やフィリピンの海戦では日本海軍に翻弄された。日本側が明らかに勝った海戦もある。当時の日米両国の軍事力や総合的な国力、そして戦場となった海域の地理的条件などを考慮すると、アメリカ海軍は、日本海軍を容易に叩きのめしてしかるべきだったのを、大いに苦戦した。つまりアメリカは過去唯一の大海戦においても、あまり強くはなかったのである。

仮にアメリカ海軍の実力が70数年前からそんなに伸びておらず、中国海軍のど素人ぶりがそんなに深刻なレベルでなければ、中国はアメリカ相手に善戦するかもしれない。少なくとも、一方的に敗退するということはないだろう。

ところが、今のところ、アメリカの動きは、中国などいとも簡単に捻り潰すことができるという前提に立っているようである。でなければ、自分の言うことを聞かない限り、腕力に物を言わせて聞かせてやる、などと無茶なことは言えないはずだ。





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