中国を語る
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中国の少数民族問題


中国には56の民族がおり、そのうち漢族以外の55が少数民族といわれている。小数といっても、絶対数では2010年時点で1億449万人にのぼり、日本の人口にほぼ匹敵する。そうした少数民族に対して、中国政府がどのような統治方針を取ってきたか、「中国は、いま」(岩波新書)所収の星野昌裕氏の論文「周縁からの叫び」をもとに考えてみたい。

複数の民族からなる国家においては、民族を統合する方法として連邦制をとることが多い。小数民族にも広範な自治権を与えることで、彼らに連邦国家の成員としての自覚と誇りを持たせようとする方法だ。ところが中国では連邦制を取らず、民族区域自治制度というものを取り入れた。これは少数民族が多数を占める地域を自治区域として指定し、其の政府に一定の自治権を与えるというものだ。少数民族そのものに自治権を与えるのではなく、彼らの住む地方の政府に自治権を与える、という点で連邦制と異なっている。

現在中国には、自治区、自治州、自治県の三つのレベルで民族自治区域が指定されている。自治区は内モンゴル自治区、新疆ウィグル自治区、チベット自治区など五つ、自治州は延辺朝鮮族自治州など30、自治県は120余りある。これらをすべて合わせると中国の国土全体の63,9パーセントにのぼる。

自治区域の政府形態も基本的には漢族地域のそれと異ならない。それぞれの地域の共産党組織が核となって、彼らが政府組織を動かしている。問題なのはこれら共産党組織を漢族が牛耳っていることだ。少数民族はだから、国家運営に主体的にかかわることができず、漢族の後塵を拝するような形になっている。連邦制と異なるというのは、こうした意味なのだ。

チベットのダライラマが、自分たちは独立や自立を求めているのではなく、本当の意味での自治を求めているのだ、と訴えているのは、形骸化した少数民族自治のあり方への異議申し立てなのである。

新疆ウィグル自治区やチベット自治区で騒乱が絶えないのは、自治制度が形がい化されるなかで、漢族の進出が進み、少数民族の利益がますます脅かされていることに対する怒りがある。

新疆ウィグル自治区の人口は1846万人、そのうちウィグル族は45パーセント、漢族は41パーセントである。かつてはウィグル族の土地であったところに漢族の進出が進んでいることを物語っている。こうした傾向のもとで、漢族はますます富を蓄え、ウィグル族はますます貧しくなっている。ウィグル人の中には、我々の土地に漢族が進出しているといのに、我々がなぜ漢族の土地に出稼ぎに行かねばならぬのか、といった声が大きくなっている。

チベット族の方は中国全土に542万人いるが、そのうちチベット自治区に住むのは243万人で、残りは近隣の青海省、四川省、甘粛省などに分散している。チベット族による自治拡大の要求が、チベット自治区を超えて近隣の地域まで拡大するのはこうした事情を反映したものだ。

中国政府はことあるごとに、中国には中華民族と云うひとつの民族があるのであり、その下に漢族はじめ56の族があるという言い方をしている。

中国の歴史を振り返れば、歴代の王朝の少なからぬ部分が漢族以外の民族によるものだったということがわかる。清朝は満州族の政権だったし、元朝はモンゴル族の政権だった。その前の五台十国や五胡十六国にも少数民族が多くかかわった。このことをもとに、中国人とは血によって決まるのではなく、中国文明を受容する者は皆中国人なのだという考え方も成り立つ。

しかし現在の中国政府の本音は、中華民族なる抽象的な概念を振りかざすことで、少数民族の独自性を否定し、漢族の優位を固定しようとすることにあるようだ。(写真はロイターから)





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