中国を語る
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ウィグルの擾乱:ウルムチにおける流血の暴動

新疆ウィグル地区のウルムチで五日発生した、ウィグル人と漢民族の間の流血の暴動事件は、中国政府によって当初80人の死者を出したと発表されたが、その後その数は倍以上に膨らんだ。負傷者の数はさらに数倍に上るとされる。

暴動の原因は、政府側、ウィグル側で異なった発表をしているので、正確なことはわからない。ウィグル人によるデモが暴徒化したというのが政府側の発表であり、平和なデモに政府側が襲い掛かったというのが、ウィグル側の発表だ。最近ある工場で漢族とウィグル人とがトラブルになり、ウィグル人が殺されるという事件が起きたが、それがウィグル人を刺激してデモにつながったという背景があるらしい。

新疆ウィグル地区で漢族とウィグル人が衝突する事件は初めてではない。1990年には、アフガン国境近くのウィグル人がイスラムの大儀を掲げて政府側部隊と衝突し、20数名の死者を出した。また1997年には、やはりイスラム系の反中国組織が政府側と衝突し10名の死者を出した。今回の事件も、こうした動きと無縁ではないと見られる。

新疆ウィグル地区は伝統的にウィグル人が暮らしてきた土地だ。そこへ近年漢民族が大量に進出してきた。とくにウルムチなどの都市部では漢民族の数がウィグル人を上回り、政府機関を初め、社会の上層を独占する勢いを見せている。これに対して、土着のウィグル人は周縁部へ追いやられ、生活基盤を失ってきている事態がある。

ウィグル人の間には、中国の発展から取り残されるばかりか、漢族によって抑圧されているという意識が高まっているようだ。そうした思いが、中国からの分離独立を求める運動に火をつけているとも見られる。

ウィグル人のほとんどはイスラム教徒である。その点一般の中国人とは、人種上の差異のみならず、宗教的にも対立する要因を抱えている。一部のウィグル人には過激化する動きもみられ、国外のイスラム原理主義と結びつきを深めている。実際アメリカ軍がアフガンで拘束した武装勢力の中には、ウィグル人も含まれていた。

民族運動が宗教的背景をもっていることは、チベットの場合とよく似ている。

中国政府は少数民族の分離主義には神経を尖らせている。チベットの場合には、ダライ・ラマを分離主義の指導者として目の敵にしてきたが、ウィグルの場合には、レビア・カーディル Rebiya Kadeer という女性を擾乱の首謀者として糾弾している。彼女はアメリカに亡命しており、インターネットを通じて国外から反政府運動を先導していると目されている。政府側は、今回の事態はもっぱら彼女の扇動によるものであり、その扇動に乗った犯罪者たちの仕業だったと主張している。

ウィグル人といえば、唐の時代から回?と呼ばれ、しばしば中国人と戦かった歴史がある。中央アジアに広く分布するトルコ系遊牧民の一部だ。ここ数世紀は、中国を脅かす存在ではなかったが、最近になって民族意識が高まり、分離独立をめざす運動も強まっているという。中国の急速な近代化が彼らの生活にさまざまなインパクトを与えてきたことが、その背景にあると考えられる。

新疆ウィグル地区では目下、インターネット網および携帯電話網は、政府による全面的な監視下に置かれている。また厳しい報道管制が引かれ、客観的な報道がなかなか伝わってこないのは、チベットの場合と同様だ。

(参考)China says 140 killed in riots in west By William Foreman AP





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