中国を語る
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日本は中国に屈したか:日中関係の危うさ


尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に、故意に漁船を衝突させたとして逮捕された中国人船長を、検察庁が処分保留のまま釈放した。

記者会見に臨んだ検察幹部は、検察庁独自の判断に基づくものだと強調し、政府の介入を否定しているが、素直にそう受け取る人は少ない。そこに政府の強い意志を感じとるとともに、その意思があまりにも情けないことに憤慨している人も多いことだろう。自民党の安倍前首相などは、弱腰外交だとして、烈しく非難している。

一方中国側は、日本に対して拳を高く上げ続けてきた経緯があるだけに、今回の日本側の処置によって、メンツを保ったとの思いがあるに違いない。中国側の理屈によれば、尖閣諸島は中国固有の領土であり、その海域で操業する中国漁船を日本側が拿捕し、あまつさえ船長を逮捕するなどは、不法で無効な行為なのだから、船長が即刻無条件で釈放されるのは当然のことだということになる。

日中の主張はこれほどかけ離れているわけだから、今回の両国のやり取りが、尖閣諸島をめぐる今後の日中関係にどのような影響を及ぼすことになるのか、注意深く見守る必要がある。

それにしてもなぜ、今のタイミングで船長を釈放したのか。また本来政治的な判断とは無縁のところで法の正義を貫く立場にある検察庁が、まるで日本国の政治を所管しているような態度で、今回の措置を決めたのは、どういう理由からなのか。

菅政権は、今回の検察の決定を時宜にかなった妥当なものだと評価しているが、本来外交上の懸案を解決するべきなのは、検察ではなく、自分たち政治家だったのではないのか。

筆者は先日のブログで、今回の問題を巡る中国側の対応ぶりを批判したうえで、この問題を解決すべき方向性について、次のように書いた。

この問題の解決に向けて、「仙石官房長官などは、場合によっては政治的な妥協をする余地もあることをほのめかしている。妥協はいつの時代でも、必要なときにはなされてしかるべきだが、しかし時と場所をよく選び、問題の本質を見極めてからにする必要があろう。」

今回の日本政府の対応ぶりを見ると、筆者はどうも、時宜にそぐわず、しかも問題の本質を十分にとらえきれていないと、感じざるを得ない。

ともあれ、今回の事件を通じて、尖閣諸島をめぐって日中間に紛争があるという認識を、国際社会に与えたとしたら、それは日本にとって得策ではなかったということになりかねない。尖閣諸島は日本固有の領土であり、その領有をめぐってはいかなる国際紛争も存在しないというのが日本政府の立場であり、それがいくばくかでも揺らぐことは、日本として極めて憂慮すべき事態だからだ。

また今回のような対応をすることによって、中国側に日本の弱腰ぶりを見透かされ、尖閣諸島の領有権をことさらに主張させるきっかけを与えかねないことも、憂慮すべきことだ。

とにかく今回の事態を通じて、日本政府の外交の甘さが露呈したといえるのではないか。日本政府は中国側のいいがかりにただただおろおろするばかりで、政治的にスマートな解決をもたらす能力を、世界に対して示せなかった。これでは笑いものにされても仕方がない。(上の写真は尖閣諸島周辺の地図)





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