中国を語る
HOMEブログ本館東京を描く漢詩と中国文化陶淵明日本文化ロシア情勢|プロフィールBSS


胡錦濤訪米の意味


胡錦濤の今回の訪米は、ときあたかも中国が世界第二の経済大国になった時期に符合させたかのように行われた。そんな中国をことさらに意識したように、オバマ大統領は細心な注意を以て胡錦濤をもてなした。

今までなら考えられなかったような歓迎振りだ。色々な面で対立や相違がある間柄で、こんなにも協調の努力をせざるをえないまで、中国の国際社会におけるプレゼンスが高まったということだろう。

数度にわたる意見のすり合わせの果てに、二人が共同で発した声明は、今日の米中関係を象徴する内容を持っていた。それは経済面における協調の必要性を確認するとともに、人権や政治システムといった問題をめぐっては、意見の対立をあえて埋めないというものだった。もし無理に埋めようとすれば、対立が衝突に発展しかねない、そういう危機感を双方で共有した結果だったからだ。

オバマ大統領の胡錦濤に対する注文は、アメリカの大統領として、最低限ゆずれなかったものだろう。それは一言で言えば、民主主義とそれを支える自由経済の枠組みを中国に認めさせようとするものだったといえる。つまり先進国の間に根付いた国際ルールを普遍的なものとして尊重しろということだ。

それでもオバマ大統領は、声高にそれを強要するような言い方はしなかった。

議会を中心にしたアメリカの国内世論は、中国に対してもっと強硬なものだった。特に通貨の問題については、中国が人民元を不当に安く誘導しているおかげで、アメリカ経済から膨大な雇用が失われているといった見方が、妄想のようにいきわたっている。胡錦濤はこうした不満に対して、ボーイングの飛行機を大量に購入し、20万人以上のアメリカ人に雇用のチャンスを与えてやろうという行動をとった。

こんなこともあって、今回は議会側も暴発せずにすませた。

胡錦濤は、民主主義や人権の尊重といった問題については、譲らなかった。西洋流の民主主義だけが普遍的な理念ではない、新興国にそれを押し付けるのは、先進国の横暴だという理屈を振りかざした。

経済の問題はともかく、政治の問題でゆずることは、強硬な国内世論を前に自殺行為に等しいとする配慮が働いたのだろう。

中国の国内勢力のうち、いまや最も侮れないのは軍部だ。彼らは国力の充実を背景に急速に実力をつけ、いまや世界有数の軍隊といえるようになった。そしてその実力を行使しながら、南シナ海や東シナ海に進出し、日本とも対立を辞さない姿勢を示している。

一方北朝鮮に対しては、過保護ともいえる姿勢をとっている。胡錦濤の後継者である習近平などは今でも、北朝鮮軍と中国軍とは血を分け合った兄弟だと放言してはばからないほどだ。そのために北朝鮮はそれこそやりたい放題で、地域にとっての重大な脅威になっている。

こうした中国の姿勢が、国際社会にとっての新たな不安定要因となっているのは否めない。

一人当たり国民所得の面ではまだまだ後進国だが、絶対的な数字で言えば世界第二の経済大国であり、かつてない大きな影響力も持つようになった。その影響力を誤った方向に発揮されたのでは、世界には無用の衝撃が走ることになるだろう。





HOME国際関係次へ









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2011
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである