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北京のスモッグ


上の写真(新華社から)は、昨日(1月16日)の北京市内の様子を写したもの。濃いスモッグのために天安門が霞んで見える。普通ならくっきりと鮮やかに見えるシーンのはずだ。こうなったのは、大気中のPM2.5の濃度が1立方メートルあたり671マイクログラムと、基準値の26倍にも達したためだ。

PM2.5は、主に暖房用に使われる石炭に由来する。その点で、かつてのロンドンのスモッグに似ている。ロンドンの場合にも、石炭の燃えカスから出た煤煙と大気中の霧が混ざることで濃いスモッグが発生した。そのすごさは咫尺を弁ぜざるほどだったと、ロンドンに留学してスモッグに出会った漱石も日記の中で記している。その部分を引用しておこう。

「(明治34年)1月3日 倫敦の街にて霧ある日太陽を見よ黒赤くして血の如し、鳶色の地に血を以て染め抜きたる太陽は此地にあらずば見る能はざらん
 1月4日 倫敦の街を散歩して試みに痰を吐きて見よ真黒なる塊りの出るに驚くべし何百万の市民は此煤煙と此塵埃を吸収して毎日彼等の肺臓を染めつつあるなり我ながら鼻をかみ痰するときは気の引けるほど気味悪きなり
 1月5日 此煤煙中に住む人間が何故美しきかや解し難し思ふに全く気候の為ならん太陽の光薄き為ならん」

北京の市民も同じ思いに違いない。ただ漱石の場合にはスモッグの煤煙が肺の中に入ってしまったようなのに対して、北京の市民は性能の良いマスクで自己防衛しているようだ。いずれにしても、こんなスモッグは文明国では過去の遺物となったものだ。環境を破壊するなんていう生易しいものではない。市民ひとりひとりの健康を破壊しているわけだから、為政者はもっと真剣に対策をとらねばならぬ。





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