中国を語る
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日中間の危機管理システムは可能か

バイデン米副大統領がやってきて日本の安倍首相らと会談した。その中でバイデン氏は、中国による「防衛識別圏」の設定について、中国側の一方的な行動は不測の事態をもたらす恐れがあり、非常に危険だとして、中国側を批判して見せた。そのことについて安倍政権は、日米間の共同歩調が確保されたと言って大いに喜び、また大多数のメディアもその喜びぶりを素直に伝えているが、一方、バイデン氏の信念でもあり、日中両政府への日頃の忠告でもある、日中間で不測の軍事的事態を想定した危機管理システムを構築すべきだとの意見については、ほとんど取り上げられることがなかった。

バイデン氏の本音は、日米関係も重要だが、アメリカが日中間の対立に巻き込まれて戦争の危機にさらされるのもごめんだというところにあるようだ。それ故、一方では日本の側に立って中国を批判すると見せかけて、日本側にも不測の事態を現実化させないという自制を求めてくるわけだろう。

しかし、バイデン氏がいうような日中間の軍事的危機管理システムは、現在の両国の状況を前提にして、果して可能だろうか。バイデン氏は、米中間でも米ロ間でも、二国間に様々な問題がある中で、そうした危機管理システムは成立しているのだから、日中間でも不可能ではないはずだと考えているのだろうと思う。だが、軍事当局者同士で危機管理システムを構築するためには、両国間に一定の信頼関係(あるいは相互畏敬の関係)があることが前提になるだろう。ところが今の両国の実情をみると、とてもそのような関係があるとは言えない状況である。信頼どころか、両国とも互いに不信を煽り立て、危機の管理ではなく、危機の演出に熱心なありさまだ。こうした状況下では、危機がことさらに暴走し、ついには不測の事態の勃発、ということになりかねない(というより、そうした状況に限りなく近づきつつある)。

一部の訳知りには、日中両国のいまの指導者たちは、日中間に危機的状況が勃発することを避けたいとは必ずしも思っていないはずだと発言する人もいる。そうした人たちは、中国は中国で、指導者たちが国民のナショナリズムを煽り立てることに政治的なメリットを認め、日本は日本でやはり、国民の危機感を煽ることで、安倍政権の宿願である憲法改正へのハードルが低くなるのだと分析している。そんな訳知り顔な分析を聞かされると、もしかしたらそうかもしれないなどと、暗い気持ちにさせられてしまう。

戦争を政治の道具に使う。そんなことだけはやめてもらいたいものだ。





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